「意味のないこと」に人生を賭ける理由
――土地と向き合い、自分を削ぎ落とし続ける男の生き方
畑の開拓。
誰に頼まれたわけでもない、利益が約束されているわけでもない。
それでも彼は、黙々と土地に向き合い続けている。
「1年を振り返ると、かなり濃厚でした。完全に畑の一年でしたね。
計画は想像以上に進んでいますが、明らかに数年単位の大プロジェクトです。
それを一人でやる。正直、めちゃくちゃ面白いです」
誰も見向きもしない挑戦に、なぜ心が躍るのか。
本人ですら「不思議」と語るが、その根底には自然と生命への強烈な実感がある。
「強いものは残り、弱いものは消えて、循環していく。
唐突な理不尽で終わることもある。
地球の歴史で見れば、生命の誕生なんて一瞬です。
それでも循環は続いている。
そこに触れて、真理を追究したいのかもしれません」
惑星の距離、想像を絶するスケールの大きさと小ささ。
それらを思うと、彼は「ドキドキする」と言う。
「常に動き出せる状態」をつくる
彼の生き方の核にあるのは、思考より先に動ける状態を維持することだ。
「思ったこと、感じたことにすぐ行動できること。
あるいは、いつでも動き出せる状況を保つことですね。
国事に待機している隊員みたいな話ですが(笑)」
そのために、まずやるのは自分を鍛えること。
「不安を感じずに動くには、心技体が必要です。
そうすれば、人は今よりもっと欲望へ突き進める」
彼にとっての欲望とは、何かを得ることではない。
「自分と向き合うことです。
自分の奥に眠っている部分を探し、行動する。
逃げて蓋をしているなら、なおさら向き合う。
それが成長だと確信しています」
不安は、選別すればいい
37歳になり、不安への向き合い方も変わった。
「恐れや不安は、成長のチャンスだと理解しています。
多くは気にしなくていい。
1年後、10分後に忘れているかを想像して、分別しています」
退職という大きな不安が、結果的に彼を解放した。
「時間を手に入れました。
それまで内側を見る機会がなかったので、自分が内向型だと初めて認識しました」
人付き合いも、仕事も、お金も、距離感が変わった。
「退職時に人間関係は清算しました。今は少数精鋭だけ。
仕事やお金も、何とかなる感覚があります。
家族とは今が一番幸せかもしれません」
一人で過ごす時間は、すべて鍛錬だという。
「食事、睡眠、運動への意識はもう戻れません。
成長を目指す限り、不可欠です」
土地は「人生の不純物を取り除く場所」
社会との接点を極限まで減らし、自然と向き合う。
彼にとって土地とは、特別な意味を持つ。
「土地は、人生の不純物を取り除き、純度を高められる場所です」
土地に向き合うとき、思考は削ぎ落とされる。
「今やるべきことだけが見えていればいい。
経験があるから、やるべきことは自然に淘汰されている。
それでいいと思っています」
最後に残したいのは、成果ではない。
「充実感です。
やりきった、乗り切った、という感覚。
何が残るかは分かりませんが、執着だけは避けたい」
生きるのに必要なものは、驚くほど少ない
彼の価値観は、極端なほどシンプルだ。
「人間は、食べて寝られれば生きていけます。
それ以外に執着すると、直感が鈍る」
だからこそ、選択肢を残す。
「本気を出せば何とでもなる、という状態をつくる。
自分を鍛え、どんな状況にも立ち向かえる技術と精神性を手に入れたい」
もしすべてを失っても、人は立ち上がると彼は信じている。
「原爆が落ちても、次の日にはバラック小屋が建つ。
人間は諦めない生き物です。
それが私の性質であり、切り札ですね」
分かり合えなくて当然、それでも敬える人と生きる
人間関係について、彼は冷静だ。
「人は人を10割理解できない。
分かり合えなくて当然です」
それでも人と繋がる理由がある。
「敬える人がいるからです。
頑張って生きているだけで、基本的に敬えます。
仲良くなるかは別ですが」
自分自身も、常に敬っている。
「自分を後回しにしない。
隠そうとしている本心の気配を感じる。
気が乗らないことはやらない」
余白は、解放であり試練だった。
「でも、きついことはないです。
今までできなかったことを、たくさんできていますから」
そして、最後に伝えたいこと
社会に疲れ、生きづらさを感じている人へ。
彼が渡したい視点は、驚くほど静かだった。
「携帯をいじらず、目を瞑り、深呼吸して過ごしましょう。
毎日それだけで、徐々に世界は変わってきます。
これは事実です。」
意味のないことに見える行為が、
人生の純度を、確かに高めていく。
彼の生き方は、その証明の途中にある。
